「津軽三味線発祥の地」とされる、青森県五所川原市(旧・金木町)で行われる津軽三味線の競技大会。第1回は1987年。主催は五所川原市、運営は津軽三味線全日本金木大会実行委員会。審査委員長を務めるのは作家の大條和雄氏で、実質的には大條氏主催の大会と言えるだろう。弘前の「津軽三味線全国大会」に対して反発・分離する形で発足したらしい。 審査は弘前の大会に比べ、センスと革新性が求められる傾向にある。弘前が保守派なら金木は革新派で、斬新な手やハイテンポな演奏も比較的認められやすい。大條氏自身、津軽三味線の歴史は革新の歴史であると明言しており、技量に限らずアレンジ能力や楽曲の完成度、また独創性などに採点の重点を置いているようだ。実際、審査員には箏曲演奏家やギタリストの他、どこかの新聞社の社長やテレビ局支局長などが含まれており、三味線奏者や唄い手は審査員に入っていない。彼らに古典的な三味線の善し悪しを採点させるのは酷というものだろう。 とは言え、過去の優勝者から、多田あつし・神谷茂良・新田昌弘・黒澤博幸ら、多数の一流奏者を生んでいることも厳然たる事実。特に、ハイテンポ・テクニカルな曲弾きを得意とする奏者が多いことはこの大会の傾向である。また、優勝者が特定流派に偏っていないことも特徴で、このあたり弘前の大会とは一線を画すると言える。特に、様々な会派の思惑がひしめく団体戦においても、独自の基準でフェアな審査を通している点は特筆に値する。他大会に比較して出場団体が多く個性も強いため、最も団体戦が盛んな大会と言っても過言ではない。 クラスはA級・B級に分かれている。本来は修得年数によるクラス分類(A級は修得5年以上、B級は修得4年以内)なのだが、実際には自己条件的に扱われており、あまり修得年数にこだわる必要はなさそうだ。また、弘前の大会と違って、性別による出場制限はない。A級の最年少優勝記録は、上妻宏光の14歳。 しかし、この大会の審査は弘前の大会と別の意味で謎が多く、事前に配布される「審査基準」はまったく守られていないと言ってよい。真剣に挑む挑戦者は、たびたび肩透かしを食うことになる。 05年、この大会は審査要綱を変更し、「演奏は津軽民謡に限」り、また「まず津軽民謡を弾く」よう義務づけられた。同時に、自分の演奏に曲名を冠するという、一風変わった規則まで作られている。このため、05年の大会では、多くの奏者が純粋な曲弾きを離れ、「津軽甚句」や「十三の砂山」にじょんから節を貼り合わせるという一種メドレー的な傾向が強まった。優勝者は津軽甚句とじょんから節のメドレーを演奏しており、その技量は別としても、この楽曲が「津軽三味線」と呼べるのか、否定論も出た。 さらに奇妙なのは入賞者たちの楽曲で、「まず津軽民謡を弾く」という基準にまったく当てはまらない者や、ごく一般的な曲弾きだけの者、果ては現代のロックをコピーして演奏した者までが入賞した。結果、事前に配られた「審査基準」を真摯に守って挑戦した数多くの出場者が、大会そのものに裏切られる形となった。 そのためか、翌年になるとまた審査要綱を変更(主催は、自らの意図が出場者に伝わらなかったと弁明しているが、何よりまずは自らの稚拙な文章力を疑うべきだろう)、「まず津軽民謡を弾く」という文がなくなり、自分の演奏に曲名をつける必要もなくなった。そのため、06年はほとんどの奏者が純粋な曲弾きで出場した。 ところが、優勝者と準優勝者はやはりメドレー。主催の大條氏はこの楽曲を絶賛し、自ら「大條先生」と敬称つきで名乗りつつ、他の出場者の楽曲を批判した。「まず津軽民謡を弾く」というルールを取りやめたのは自分であるにも関わらず、である。 優勝者、準優勝者の技量について異論の余地はなかろう。問題は、この大会の審査基準が曖昧模糊としたものであること、しかも毎年変化して一貫性がまるで認められないこと、そして何より審査員に津軽民謡の専門家が誰一人として入っていないこと、以上の三点である。いずれもコンクールとして致命的な欠点ばかりであり、この大会が続いている理由がまったくわからない。 結局のところ、審査は大條氏の気に入るか気に入らないかという一点にかかっていると言ってもおそらく過言ではなく、大会としての公平性に疑問を投げかける者も多い。そもそも、「津軽民謡を弾け」と教示する大條氏が、何を持って「津軽民謡」の定義をしているのかも不明だ(本来、じょんがら節の曲弾きだけでも、よほど奇妙な手を使わない限り、立派な津軽民謡である)。そのため、若手の奏者は敢えてこの大会を避ける「金木離れ」の傾向すら出始めている。 少なくとも、津軽三味線発祥の地」としてのプライドを賭けて、また全力で挑む出場者たちに報いるためにも、審査基準の明確化と厳密な運用が早急に望まれる。この大会の価値は下がる一方であり、これでは出場者も、過去の優勝者たちも報われないだろう。 大会は毎年ゴールデンウィークに行われる。ライバルの弘前大会と日程がかぶるのだが、毎年微妙にずらしてくれるため、両方に出場することも可能。
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