三味線に張る皮は猫・犬・蛇・合成の四種があるが、津軽に用いるのは犬皮。猫は「四ツ皮」とも言い、細棹・中棹に用いられる。蛇は奄美・沖縄地方で使われる「三線」(さんしん)にのみ用いられる。合成皮は湿気や温度変化に強く非常に丈夫だが、価格が犬皮と変わらない上、音質にきわめて劣るため好まれない。 犬皮は背中の部分を用いる。なめして漂白した状態で職人に納入され、水気を含ませて澱粉で強く張る。湿度・温度変化に敏感で非常に破れやすいため、扱いには注意が必要。両面張り替えの相場は5万円ほどだろう。なお、合皮の場合は接着剤を用いるため、さらに湿度に強くなる。 皮の好みは千差万別だが、一般には国産の秋田犬、それも若い処女(処雌?)が最高級とされる。現在は大半がアジア全域からの輸入物である。というのも、日本を除くアジア全域では犬肉を食べる文化があるからだ。肉は食べても、皮はほとんど用をなさないので、なめして三味線用に輸出するのである。ちなみに、猫もやはり食用とされている。 「羊頭狗肉」(羊の頭を飾って犬の肉を売る)という諺からもわかるように中国でも古くから犬は食べられていたし、韓国の補身湯(犬肉の鍋料理)も有名だ。フィリピン、インドネシア、パラオ等東南アジアの国々では、犬肉はご馳走として扱われている。これら食用の犬はだいたい同様の特徴を持った中型の赤犬であり、ほとんどが動物資源として生産されている。犬種かまわず虐殺して食べるというわけではない。 イギリスやオーストラリアを先頭にアングロサクソン・プロテスタントの動物愛護団体が過激に犬食を批判しているが、豚や牛を殺して食べることとどこが違うと言うのだろうか。個体数管理の下、動物資源を有効活用するという点では責められるべきことは何もないのだ。不当な文化的差別だと判断せざるを得ない。 三味線の皮について、牛だ、豚だ、と偽ってごまかすことはできるが、相手を欺くことこそが最大の罪だ。三味線を扱う人間として、卑屈にならず堂々と胸を張るべきだろう。同時に、我々の三味線が犬食文化によって、何より犬の命によって支えられていることもよく知っておくべきである。 |